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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)5979号 判決 1963年4月26日

判   決

東京都八王子市散田東町七六六番地の四

原告

山本桓志

右訴訟代理人弁護士

佐久間三弥

上山太佐久

東京都大田区羽田四丁目一五番地の一三

被告

株式会社大森運輸商会

右代表者代表取締役

関三郎

右訴訟代理人弁護士

黒田代吉

右当事者間の損害賠償請求訴訟事件について、当裁判所は、つぎのとおり判決する。

主文

1、被告は、原告に対し、金六四〇、五〇〇円を支払え。

2、原告のその余の請求を棄却する。

3、訴訟費用は、被告の負担とする。

4、この判決は、第一項にかぎり仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は、原告に対し金六四一、〇〇〇円を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、(以下省略)

理由

一、昭和三四年一一月三〇日午後五時一二分ころ、目黒区上目黒七丁目一、二二一番地の横断歩道上において、原告と訴外増田勝男運転の被告車とが衝突し、よつて、原告が右下腿骨々折及び頭部裂創の傷害を受けたことは、当事者間に争いがない。

二、被告が被告車を所有し、これをその被用者である増田に運転させて、その業務を執行中に本件事故が発生したことは、当事者間に争いがないから、被告が自己のため被告車を運行の用に供する者であることは明白であり、したがつて、被告は、その抗弁が理由ありとして認められない限り、原告が本件事故によつて蒙つた損害を賠償すべき責を免れえない。

三、1、(証拠―省略)及び弁論の全趣旨を綜合すると、本件の衝突事故が発生した地点は、北方の上目黒交叉点方面から南方の品川方面に通ずるアスフアルトで舗装された車道幅一四・六米の見通しのよい道路と、幅六・九米の東西に通ずる道路とが直角に交叉する交叉点の北側の横断歩道上であつて、右一四・六米の道路の中心線の僅かに東側であること、この交叉点は、当時、交通整理も行われていなかつたこと(信号機も設けられていない。)原告は、右横断歩道を東から西に向つて歩行し、ほぼ中心線の付近において南方から北方に向つて進行してくる車両等の通過するのを待つていたこと、他方、訴外増田は、被告車を運転して北方から南方に向い時速約三五ないし四〇粁の速度でこの交叉点にさしかかつたのであるが、横断歩道の手前約三〇米の位置付近で、進路前方にこの横断歩道のあることを認識し、その直後に横断歩道上を左から右に向つて歩行する人影を認めたのであるが、歩行者は、その儘進行するものと考え、被告車の前方を先行するバスの右側に出てこれを追越そうとしたこと、そのころ、被告車と対向方向に進行する車両の前照燈の光が増田の眼に入り、同人は一瞬前方を注視することが因難になり、横断歩道の約七米の手前に至つてはじめて中心線付近に佇立している原告を認め、危険を感じて急制動の措置をとつたが間に合わず、被告車の右前照燈付近を原告に衝突させてこれを一一米余左前方にはね飛ばし、被告車は衝突地点から二・四米前進した位置で停止したことが認められる。右認定に反する証人(省略)の証言部分は採用しがたく、他にこれを覆すに足りる証拠はない。

2、被告は、本件事故は、原告が中心線付近において突如後退したために発生した旨主張し、これに符合する証人(省略)の各証言部分もあるけれども、これらは原告本人の供述に照して採用しがたく、原告が左右の安全を確認しないまま、車両等の近接するのを無視して横断しようとしたこと及び車両等の直前で横断した点に本件事故の原因がある旨の被告の主張については、これを認めるに足りる何らの証拠もない。(仮りに、原告に被告が主張するとおりの所為があつたとしても、そのことから当然に増田が無過失であつたことになるものでもなく、また、被告が主張するように不可抗力による事故と認められるわけのものでもない。)その他、増田の無過失を認めるに足りる証拠はない。

しかも、前示認定の事実によると、本件事故は、かえつて、増田の過失によつて惹起したものと認められる。蓋し、自動車運転者たる者は、信号機の設置がなく、交通整理も行われていない交叉点を通過しようとする場合には、予め前方及び左右を注視して横断歩道上を横断しようとする歩行者の有無を確め、若し、横断しようとする歩行者がいるときは、その動静に注意していつでも停車できる速度に減速して進行すべき注意義務があり、まして、すでに横断歩道上を横断中の歩行者がある場合には、これを早期に発見してその手前で停車できる速度に減速して進行すべき義務があることは、極めて当然のことといわなければならないところ、増田は、前示のように、約三〇米手前から前示横断歩道の存在を認識し、しかも、その直後には同所を横断歩行中の人影を認めながら、右の注意を怠り、歩行者はその儘道路の右側に横断してしまうものと軽信し、徐行するどころか先行するバスをその右側から追越そうとしたため対向車両の前照燈の光によつて前方の注視を妨げられ、中心線付近に佇立する原告を発見し危険を感じて急停車の措置をとつたときはすでに遅く、前示のように被告車を原告に衝突させるに至つたものだからである。

かくして、訴外増田の無過失が認められない以上、被告の抗弁は、その余の点についての判断に立ち入るまでもなく理由があるとはいいえないのである。

四、そこで、進んで損害の点について判断する。

(証拠―省略)を綜合すると、原告は、

1、昭和三四年一一月三〇日前示のように受傷して即日渋谷区大和田町八五番地大下外科医院に入院し、翌三五年四月一六日退院するまでの間において、訴外木村道子、同木村瑠璃子及び同中島貞子らを順次付添看護人として雇い、その日当、食費、夜具代等として、木村道子に対し合計金一一、四〇〇円、木村瑠璃子に対し金一、〇八〇円、中島に対し少くとも合計金五〇、九九〇円以上の各支払いを余儀なくされ、少くとも原告が主張する合計金六三、四七〇円の損害を蒙つたこと。

2、昭和三五年五月分、七月分及び八月分の右下腿骨々折後療法(マツサージ)治療代として、訴外佐藤達郎に対し、合計金二五、二〇〇円の支払いを余儀なくされて、同額の損害を蒙つたこと。

3、本件事故による受傷のため前示期間入院し、退院後もなお昭和三六年三月未日まで、その勤務する訴外御木本真珠店目黒分工場に出勤できなかつたことによつて、昭和三四年一二月分から昭和三六年三月分までの得べかりし給与合計金三四四、〇三〇円を喪失し、同額の損害を蒙つたこと。

4、(イ) 昭和三四年一一月三〇日訴外藤田せともの店に湯呑代金として金一四〇円、(ロ) 同日訴外岡田屋雑貨店にふきん、スプーン及びナイフ代金として合計一、二五〇円を、(ハ) 同日、訴外田中薬舗にオボン、洗面器、石鹸、石鹸箱、キユース、コツプ及びヤカン代として合計金一、〇〇〇円を、(ニ) 同日、訴外山口薬局にタオル、塵紙及び歯磨代として合計金四一〇円を、(ホ) 同日、訴外有限会社テレビ日本堂に電気ストーブ代として金二、九四〇円を、(ヘ) 同日、訴外宝屋ふとん店にシーツ代として金三三〇円を、(ト) 翌一二月一日、訴外玉川製綿寝具工業所に毛布代として金七〇〇円を、(チ) 同日、訴外田中薬舗にビンチ、洗濯紐、石鹸及びバケツ代として合計金二七五円を、(リ) 同日、訴外志賀屋糸綿店に枕代として金八五〇円を、(ヌ) 翌一二月二日訴外新生商事株式会社に座椅子代として金四八〇円を及び(ル) 昭和三五年四月二〇日前示医院にレントゲン写真撮影料として金六〇〇円を各支払うことを余儀なくされ、合計金七、八五〇円の損害を蒙つたこと

が認められ、以上の認定に反する証拠はない。原告は、右の他諸雑費として金四六〇円の損害を蒙つた旨主張し、(証拠―省略)によると、原告は、昭和三四年一一月三〇日湯呑四箇の代金として金一〇〇円、同年一二月二日花瓶代として金一五〇円、花代として金一六〇円合計金四一〇円を支出していることが認められるけれども、これらの支出は、原告の入院によつて通常必要とされるものとは解されないから、これを本件事故の発生と相当因果関係のある損害ということができず、その他、前示認定の金七、八五〇円を超える部分の損害を認めるに足りる証拠はない。

5、前示四の冒頭掲記の各証拠と証人(省略)の証言とを綜合すると、原告は、前示の受傷後直ちに前示医院に入院し、ばらばらに折損した右下腿骨を鋲で歩め、その骨が癒合してから再手術によつて鋲を取り除き、前示のように昭和三五年四月一六日に退院したこと、その後も前示のように昭和三六年三月まで自宅において療養を続けたが、今日なお、右下腿は変形し、軽度の短縮及び膝関節の屈曲障害を残しているため、日常生活や作業上少からず不便を感じていること、しかも、この後遺症は、今後も治癒することはないものと認められること、他方、被告は、自動車を三十数台保有し、従業員六五名、資本金三〇〇万円(含み資産約一、八〇〇万円)の運送会社であること、本件事故発生後原告のためその入院手術費として合計金二〇二、九四五円を、昭和三五年四月及び六月分のマツサージ代として合計金一七、四〇〇円を各支出していることが認められ、右認定に反する証拠はない。これらの事実と、本件事故の態様、原告の年令、職業その他諸般の事情を綜合して、本件事故の発生によつて原告が蒙つた精神的苦痛を考えると、その慰藉料額は、なお原告が主張する金二〇万円を下るものではない。

五、そこで、前示の損害額合計金六四〇、五〇〇円(一〇〇円未満は切捨)の賠償を求める部分についての本訴請求は理由があるが、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二条但書、仮執行の宣言について同法第一九六条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第二七部

裁判官 羽 石   大

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